消費者の嗜好が多様化する中、アパレル業界ではトレンドの移り変わりに合わせた小ロットでの多品種生産が求められています。小ロットでの多品種生産において欠かせないのは、需要を正確に予測し、必要以上の在庫を持ち過ぎないということです。そうした中、パーソナル人工知能「SENSY」の需要予測サービスがアパレル業界で注目を集めています。
■アパレルのMARK STYLER、SENSYと需要予測AIの実証実験に参加
SENSYは、感性工学に基づいて一人ひとりの感性を個別に解析する、自然言語処理・画像解析技術などを組み合わせたディープラーニング(深層学習)技術です。このパーソナル人工知能「SENSY」を活用した需要予測サービスは、大手アパレル企業での導入が進んでおり、セレクトショップや専門店を展開するアパレル大手約50社のうち、4分の1程度がSENSYを導入しているといいます。 中には粗利が18%向上した例があるなど、その効果が認められています。
SENSYは2019年2月、TISインテックグループのクオリカが手掛ける流通・サービス業界のファッションアパレル企業向けMD支援システムと、「SENSY-MD」を組み合わせた新プロダクトの開発に向け、アパレル大手のMARK STYLER社との実証実験を開始しました。
MARK STYLER社は、幅広い年代と嗜好に合わせたブランドを数多く展開し、約200の店舗とeコマースで提供しています。展開する商品の鮮度維持や、顧客ニーズの多様化を反映した店頭商品の陳列、売れ筋商品を見極めて在庫を適切なコントロールするスキルなど、幅広い業務に対応できる人材の育成が求められる一方で、少子高齢化による人材不足や離職といった問題も抱えていました。
これまで同社が蓄積したノウハウに加えて、AIが解析した売価変更と需要予測を組み合わせることで意思決定を迅速にし、本部スタッフの業務負担軽減を目指すとしています。
(参照:PRTIMES 感性解析、パーソナル人工知能「SENSY」の需要予測サービスがアパレル業界向けに新サービス)
■「服を買う」という行為から得られる膨大な情報を需要予測に活用
従来の需要予測とは、過去の販売実績や気象といったマクロデータを分析して売れ筋商品を見極めていくもので、そこに顧客の嗜好は反映されません。
一方、SENSYが扱うのは“感性工学”と呼ばれる領域です。AIが顧客ごとの好みを理解し、適切に商品を提案できれば在庫を減らせるのではないかという発想のもとに、需要予測サービスは誕生しました。
AIに学習させるには膨大なデータが必要です。ただ、服を一着買うという行為だけでも結構な量の情報量が得られます。例えば、服の種類やデザイン、色、ブランド、素材といった服そのものの情報。買った店の地理的な情報。購入日の気象条件や時間帯。洋服だけでなく、コスメやライフスタイルまで含めた世の中のトレンドなど。こうした情報が組み合わさることで「なぜこの顧客はこの服を買ったのか」ということが導き出されるわけです。
SENSYはAIが需要を正確に予測することで、マーケットのニーズを踏まえた商品の企画、マーチャンダイジング、在庫管理といった業務を効率化します。
アパレルは感覚的なコンテンツでもあり、データによる裏付けよりも感性が重視されてきました。SENSYによって感性をデジタル化することで、より精緻な判断が下せるようになります。
(参照:Weare SENSYに聞く“AI導入元年”を迎えたアパレル業界が今知るべきこと)
■需要予測の結果をもとに人間とAIで業務の役割分担が進む
ただ、AIが需要を予測するからといって、その結果を鵜呑みにするというわけにはいきません。AIの判断材料は膨大なデータであり、データは過去の情報の蓄積です。AIはいまのところ、ゼロから何かを生み出すという作業はできません。
今後は、AIがデータから分析した需要予測結果を見ながら予測の精度を向上させるためのデータの工夫などに知恵を絞ったり、そこから新たなトレンドを生み出したりといったクリエイティブな業務に注力すべく、人間とAIのあいだで仕事の棲み分けがされるようになるでしょう。