商品を消費者に届ける宅配便や、タンカーによる原油の輸入など、物資を移動させる重要な役割を果たしている物流業界ですが、近年は物流業界にもいくつかの大きな問題が浮上しているのをご存知でしょうか。
また、それらの問題を解決するための手段として「AI」が活用され始めているのをご存知でしょうか。一見、物流業界との関わりが薄いように感じられるAIですが、近年はAIを導入する企業が増え始めているのです。
そこで今回は、物流業界が抱えている主な問題についてご紹介するとともに、その問題を解決に導くAIの活用方法について詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
■そもそも「物流」って何?
物流という言葉を聞いて、何となくのイメージができる方は多いかと思いますが、物流とは具体的にどのような目的を持ち、どのような機能が備わっているものなのでしょうか。まずは、物流の基礎について理解した上で、AIとの関係性についてみていきましょう。
物流とは、供給者から需要者に物資を移動させる活動のことです。もっとも分かりやすい例としては、インターネットショッピングの宅配が挙げられるでしょう。インターネット上で何かしらの商品を購入した場合、その数日後には購入した商品が自宅へ届けられます。その商品の「配送」という業務が物流に該当するわけです。
ただ、物流に該当するのは配送業務だけではありません。物流は、商品の移動に至るまでのプロセスも含まれるからです。つまり、商品を包装する作業や、商品を保管する作業なども物流に含まれるということです。
また、物流は企業の業績にも大きな影響を与える存在とされています。どれだけ素晴らしい商品を販売しても、その商品を消費者に届けるための物流がストップしてしまえば、消費者への供給も不可能になるからです。つまり物流は、需要者と供給者の橋渡しとなる重要な存在なのです。
■物流業界が抱えている問題点
そんな物流業界において、近年はいくつかの問題が生じているのをご存知でしょうか。大きな問題点としては、以下の3つが挙げられます。
・ドライバー不足
宅配便の人手不足は特に深刻化している状況です。国土交通省のデータによれば、道路貨物運送業就業者数は2003年以降増減を繰り返しているものの、約180万人で推移しているといいます。しかし、就業者全体に占める若者就業者の割合は、全産業平均と比べて低くなっており、特に人手不足が深刻化しているのです。
・労働環境が過酷
物流業界の労働環境も厳しさを増している状況にあり、厚生労働省のデータによれば、年間の総労働時間は全産業で2,124時間となっているものの、中小型トラックは2,484時間、大型トラックは2,604時間となっています。基本的に1日の拘束時間は13時間と定められているものの、延長する場合には最大16時間の拘束が可能であり、15時間を超える拘束は週に2回まで可能となっているのです。厚生労働省が定めた基準の時点でこれだけ厳しいものになっているわけですから、いかに労働環境が過酷な状況であったかがお分かりいただけるのではないでしょうか。
・再配達がドライバーの負担を増加
宅配便などの家庭への小口配達では、サービスの向上という観点から、再配達を行わなければならない状況になっています。これは、ドライバーへの負担が増加するのはもちろんのこと、運送業者の業務効率を低下させる原因にもつながりかねません。
■物流業界の抱える問題を解決に導くAI活用法
このように、物流業界では多くの問題が発生していることがお分かりいただけたでしょう。しかし、最近ではこれらの問題も少しずつ解消され始めています。AIの活用をはじめとするさまざまな工夫によって、少しずつ業務効率化を実現できるようになってきたからです。特にAIの活用は、これまで人が行わなければならなかった作業を完全に自動化することも可能になるため、大幅な業務効率化を実現しています。では、どのような形でAIが活用されているのか、より詳しい導入事例を見ていきましょう。
・倉庫への入庫作業を自動化
先ほどもご紹介したように、物流は物を移動させる業務だけでなく、そのプロセスとなる包装や保管といった業務も含まれます。そのため、倉庫への入庫作業なども物流に該当するわけです。
その倉庫への入庫作業においては、これまで人の目で商品のパッケージやタグなどを確認しなければなりませんでした。そして、その商品名や型番などを倉庫管理システムに入力する作業も、人が行わなければならなかったわけです。
しかし、最近はAIの画像認識技術を活用したシステムが活用され始めており、この一連の業務をすべて自動化させることができるようになりました。人間による目視とシステム入力作業を自動化させることで、検品業務を半分以下の時間で実施できるようになったといいます。
・荷物の仕分けを自動化
倉庫や物流センターでは、出荷する荷物や商品の仕分けが日々行われているわけですが、場所によっては荷物の種類が多岐に渡るケースも存在します。そのような倉庫では仕分け作業が複雑化するため、どうしても人の手で仕分けを行わなければならない状況でした。
しかし、最近では画像判別AIとディープラーニングを活用する企業も増えてきており、複雑な仕分け作業も自動化させることができるようになっています。
・ドライバーの居眠り運転防止
上記2つは倉庫内で発生する業務を効率化するものですが、AIは倉庫外で発生する業務の効率化にも貢献しています。その代表例として挙げられるのが、荷物を運ぶドライバーの居眠り運転の防止です。現段階ではトラックの運転業務を自動化することはできていないため、ドライバーが運転をして荷物を運ばなくてはなりません。そのため、ドライバーの居眠り運転によって事故を起こしてしまうリスクも伴っていたわけです。
ただ、最近ではAIを活用した車内カメラにより、ドライバーの居眠りを監視するソリューションなども多くなってきています。AIが居眠りの兆候を映像から判別した上で、ドライバーに呼び掛けたりすることができるのです。これにより、ドライバーの居眠り運転による事故リスクを大幅に減少させることができるようになりました。
このように、多くの問題を抱えていた物流業界においても、AIの導入によって状況が大きく変わり始めています。AI技術はさらに進化を続けていくことが予想されていますので、物流業界においても多様な形でAIが活用されていくかもしれません。今後の動向にもますます注目が集まります。